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今シーズン、33年ぶりのセリエA優勝を成し遂げたナポリ。シーズン序盤から躍動する攻撃陣の好調ぶりから、なんと残り5試合を残した段階で2位ラツィオとの勝ち点差が16ポイントとなり優勝が決定しました。これはディエゴ・マラドーナを擁した89/90シーズン以来の33年ぶりの優勝です。
優勝の立役者のひとり、FWクバラツヘリアの開幕時の市場価値は1000万ユーロでしたが、現在は1億ユーロ(日本円で約150億円)と10倍の数字に。そして今季32試合26ゴールでセリエA得点ランキングトップのオシムヘンは1億5000万ユーロ(日本円で約230億円)という金額に大きな変動が見られます。
イタリアの実業家、映画プロデューサーでもあり、ナポリの会長でもあるデ・ラウレンティス氏は「来季はチャンピオンズリーグを狙う」と威勢の良いコメントを残していますが、ビッグクラブがこぞってナポリの選手たちの獲得を狙っていることは確かです。市場価値も上がればより高い金額を提示してくれるクラブに移籍を考える選手も少なくないはず。
そして優勝に大きく貢献し、チームを指揮していたルチアーノ・スパレッティ監督が今季限りで退任をしました。彼は1995年から監督としてのキャリアをスタートさせ、セリエAを中心に様々なクラブを率いました。中でもASローマでの監督時代に大きな注目を集めました。その名も「0トップシステム」。生粋のストライカーを起用せず細かなパス回しとMFの走り込みを組み合わせた攻撃サッカーはセリエAで最も美しいサッカーと言われました。
07/08シーズン、ローマはFWに怪我人が続出し、遂には出場できるFWが不在という窮地に追い込まれました。そこでスパレッティ監督は本来、「1・5列目」で「司令塔」の役割を担っていたチームの大黒柱トッティを1トップに据えて、ピッチ上に純粋なFWを1人も置かないという賭けに出ました。結果的にこの斬新なシステムに対し対戦チームは有効な対策を持ちえず、ローマの快進撃が始まったのです。この戦術は後にバルセロナを始めとする強豪クラブにも大きな影響を与えました。
なんだかんだで前置きがかなり長くなってしまいましたが、今回はそんなナポリのウルトラス(過激派サポーター)の実態を描いたNetflixオリジナルのイタリア映画「Ultras」をご紹介します。
ナポリはなんといっても熱狂的なサポーターが有名でもあります。そもそもイタリアという国は南北での格差が現在でも問題として挙げられます。産業が発達して経済的にも豊かな北部からは、南部に位置するナポリの経済的・社会的な後進性を象徴するシンボルとして、偏見と蔑みの目で見られてきました。特に、対戦相手のサポーターからの扱いは酷く、ミラノやヴェローナに遠征するたびに「ようこそイタリアへ」とか「石鹸で身体洗ったか?」とか、そういう横断幕やコールで迎えられてきました。
「貧しい庶民層にとって、この街で生きて行くのはいろんな意味で楽なことじゃない。カルチョはそのはけ口として機能している面がある。」とイタリアのスポーツ紙が語るようにナポリに住む人たちにとってサッカーは宗教のようなもので、ナポリほどサッカーに熱狂し情熱を傾けている都市はイタリアを見回しても他にはないと言われます。
ナポリで生まれナポリで育ったカルチョ(イタリア語でサッカーの意)に熱狂する男たちが集う過激派サポーターグループ「ウルトラス」。グループの創設に関わった高齢な世代は過去に起こした暴動事件によってスタジアムの出禁を食らっています。その1人がこの物語の主人公サンドロ。そんな彼らとスタジアムに足を運ぶ若い世代に亀裂が入っていき、次第には対立することになります。劇中ではスタジアムに入れない彼らに向けたチャントで「Onoriamo i diffidati(出入り禁止の友に敬意を)」と力強く叫ぶシーンがあります。
暴動事件に関わった人物の中にアンジェロという若い青年の兄もいました。しかしその暴動事件によって兄は死亡、そして父親もおらず母親は母親気取り。そんな孤独なアンジェロを息子のように思うサンドロとの描写は心温まるシーンばかりです。果たして対立した「ウルトラス」はどんな結末を迎えるのかというのが簡単なあらすじです。
物語の構成としては日本のヤクザ映画といった感じで、ヤクザ映画が好きな自分はかなり観やすかったです。皆さんの予想通りほとんどが喧嘩やドラッグ、SEXで、もちろんサッカーシーンは一切ございません。よくこんなに正常でいれるなってぐらいひたすらマリファナとコカインを愉しむ姿には少し違和感を感じましたが、これまで紹介してきたフーリガン要素のある映画の中ではダントツで悪そうな雰囲気が別格でした。
サッカー映画では珍しく劇中に実際のスタジアムが登場します。ナポリのスタディオ・サン・パオロ、ローマのスタディオ・オリンピコ・ディ・ローマで実際に撮影され、発煙等を投げるシーンは興奮しましたね。
個人的にはアンジェロがとにかくイケメンすぎる印象が大きいです。「ターミネーター2」のジョン・コナーのような見た目の彼はウチでも取り扱っているFILAやSergio Tacchini、Diadoraやadidasなどのスポーツブランドを着ていました。アンジェロが履いていたDiadoraの白スニーカーがなぜかめっちゃカッコよく見えて買おうか検討しています。写真にはありませんが劇中で着ているFILAのスウェットも良かったです。イギリスのカジュアルズやフーリガンなどとはまた違ったファッションなのかと思っていましたが、意外にも大きな違いは無い気がします。国境を超えても、フットボールではなくカルチョであっても継承されたカルチャーは存在すると感じました。
もちろんこんな悪い奴らだけがナポリのサポーターってわけでは無いのでそこは誤解しないようにお願いします。国単位、いや地域によっても経済状況や文化などが大きく異なりますが、イタリアのナポリに住む人のサッカーに対する価値観を肌で感じられる作品です。かと言っても気を張って真剣に観るべき作品ってわけでも無いと思うのでぼーっと観て「へぇ~」って軽く頷きながら緩く観るぐらいで良いと思います。そんな作品です。